越前が舞台の歴史小説『かすてぼうろ』著者、武川佑さんのトークショー

こんにちは。テッシーです。今回も長いけどな! 読んでくれよな!(笑

8月24日、歴史小説『かすてぼうろ』の著者、武川佑さんのトークショー。場所は越前武生にある和宿「多葉喜」。小説の舞台と同じ場所にいることを噛み締めながらここにいます。『かすてぼうろ』は、江戸初期の越前(福井県)を舞台に、武将たちの心を動かす料理を作る少女を描いた物語です。

武川さんは神奈川県のご出身で、福井の生まれではありません。そのことがかえって、越前武生のことを貪欲に調べ、地元の方の話を丁寧に聞き、足で集めた実感を物語に育てたのだと感じました。外からのまなざしが、地元の人がいつか忘れてしまった何かを拾いおこす瞬間であるような気がしました。

トークショーで、まず強く心に残ったのは、受け継がれなければ消えていくものの存在です。武川さんは、おばあちゃんから孫へと手渡される料理のレシピの話をしながら「受け継がないと失われてしまう」という言葉を、自分自身にも問いかけながら聞いていました。

女性作家ならではの視線が、台所の湿り気のような部分に明かりを灯し、これまでの福井の描かれ方に新しい奥行きを与えています。私はフィルムコミッションの担当として、文学から映画へと橋を架ける可能性を思い描きながら聞いてました。『かすてぼうろ』の世界が息づく武生は、イベント会場の和宿「多葉喜」のように、温かさと文化の香りが共存する場所だと。

歴史を知ることで、同じ景色を違ったものに変えてくれます。日々歩いている路地も、そこにどんな人が行き交い、どんな季節の営みが積み上がってきたのかを知ると、例えば、石の角のすり減りに意味が宿ります。イベントの帰り道、武生の町を歩くと、曲がり角の見え方が少し変わりました。武川さんは、物語に登場する人びとの息づかいを丁寧に拾い、現在の言葉に移しかえていきます。小説を読むとは、紙面に並ぶ文字を追うことではなく、その時間の層の上に自分をそっと置いてみることなのだ、と改めて感じました。

私自身の歩みを少しだけ書くと、写真やデザイン、そしてワインに関わる仕事を続けてきました。ワインの世界では、土地の気候や土壌、食卓との関係を読み解きながら「その土地らしさ」をボトルに込めます。いま福井でやりたいのは、似たような営みです。土地の記憶や人の温度、物語…それらを映像の中に残していくこと。写真のフレーミングはロケハンに役立ちますし、デザインやウェブの知見は情報の届け方に役だててくれます。何より大切なのは、目の前の人の声を丁寧に聞くこと、やはりそこだと思います。

越前武生を舞台にした物語は、すでに私たちの手の中にあります。あとは、その物語に見合った歩幅で町を歩き、人と出会い、食卓を囲むだけです。もしこの文章を読んで、武生を歩いてみようと思ってくださる方がいたら、とても嬉しいです。『かすてぼうろ』のページを一枚めくるたび、あなたの前にシーンが現れるはず。それは、あなたにとっての映画の最初の一コマかもしれません。そして、いつかスクリーンに映る武生の町でお会いしましょう。

iphone にて撮影

光文社 書籍情報サイト:『かすてぼうろ』
https://books.kobunsha.com/book/b10125581.html
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山深い田舎で育った十三歳の於くらは、越前府中城の炊飯場で下女働きを始める。ある夜、於くらが一人働いていると、城仕えと覚しき初老の男がつまみ食いをしにやって来る。於くらの作ったおやきをうまそうに食べるその人物は、なんと城主・堀尾吉晴。料理の才に恵 まれた少女が、自らの才覚と実直な人柄で、関ヶ原合戦前後の激動の世をひたむきに生き抜いていく。