福井県立大学でゲスト講師としてワークショップを行います

福井で地域おこし協力隊として活動しながら、フィルムコミッションの仕事に携わる中で、映像というものが持つ魅力に改めて驚かされる機会が多くなりました。風景だけでなく、そこにいる人の感情や、その地域に流れる空気まで表現しているように感じることがあります。

そしてもう一つ、感じているのは、「映画を観終わったあとにも、大きな意味がある」ということです。スクリーンの前で鑑賞する時間は、もちろん豊かですが、そのあとに誰かと話したとき、自分の中で揺れていたぼんやりしていたものが輪郭を帯びる瞬間があります。あの感じは、ひとりではなかなか味わえないものなのではないかと思います。

今回、シネマ ダイアログ ラボとして、福井県立大学さんの授業の一コマをお預かりし、学生のみなさんと一緒に映画鑑賞と対話のワークショップを行うことになりました。授業の正式な一環としての実施なので、一般の方が参加できるイベントではありませんし、100名以上という人数です。進行も容易ではありません。ただ、その制約の中でも、学生が安心して感情や気づきを共有できる場をつくりたいと思っています。

映画を観るところから始まり、そのあと静かに自分の中を整理し、隣に座る誰かと話してみる。大げさなことを語る必要もなく、正解を探す必要もありません。ただ、「自分はここで少し胸に引っかかった」「この場面が好きだった」「正直よくわからなかったけれど、なんとなく気になった」そんな素朴な言葉で十分だと思っています。

最近の学生さんは、SNSでのコミュニケーションはとても上手だったりします。短い言葉で的確にまとめたり、その場の空気を読むのも早いです。でも一方で、「自分の言葉で、自分の感情を時間をかけて伝える」という体験は意外と少ないのではないかと感じています。思ったことを言うのではなく、「求められた答え」を言ってしまう。周囲に合わせてしまう。あるいは、心の中にしまい込んでしまう。映画を通して生まれた言葉なら、もう少し自分に優しく、自然に出てくるのではないかなと思っています。

今回のワークショップでは、就職活動のためのテクニックを教えるわけではありませんし「これが正しい考え方です」と提示することもありません。ただ、自分の内側から出た言葉に耳を澄ませる経験が、結果的に将来、自分の進路や生き方を考えるときに役立つものになればいいなと思っています。自分は何に心が動くのか、どんな価値観を大事にしたいのか。それは机に向かって考えるだけでは見つからないことが多いです。物語を通して揺さぶられたり、誰かの言葉にハッとしたりする中で、「あ、これ、意外と自分にとって大事なんだな」と気づくことがあります。

地域おこし協力隊として、そして移住者として福井に暮らすようになり、「人が自分の言葉で語れる場」が地域の豊かさに確実につながっていくと実感しています。だからこそ今回、大学の授業という場で、映画と対話を通じて学生のみなさんと一緒に時間をつくれることが、本当にありがたくて楽しみです。短い90分ですが、きっとその中でそれぞれに小さな気づきが生まれるはずです。その積み重ねが、未来の自分を少しだけ優しく照らしてくれるものになることを願っています。

Cinema Dialogue Lab.(シネマ ダイアログ ラボ)
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Cinema Dialogue Lab.(シネマ ダイアログ ラボ)は、映画鑑賞後の対話を通じて、個人の感情や価値観を言葉にし、他者と共有する場を創出する文化活動団体です。映画は、観る人の年齢や経験、文化的背景によって異なる解釈や感情を引き出します。その違いを尊重し合う対話を通じて、自身の価値観を相対化し、多様性への理解や創造的な思考を育むことができます。福井を拠点に、公共施設や教育機関などで上映・対話イベントを実施しながら、県内外・海外のコミュニティとも連携。映像と対話を通じて、人と人、地域と地域をつなぐ循環型の文化プラットフォームの構築を目指しています。