今回、福井県立大学で行われた授業の中で、映画鑑賞と対話を組み合わせたワークショップを12/22、25の2コマを担当しました。それぞれ約100名、合計約200名の学生が参加し、新聞取材も入る形で、かなり大きな規模の試みになりました。大学の正式な授業として行われた取り組みなので、単なるイベントではなく、教育として成立するか、学生に何が残るか、そして県として意味があるかということを、常に意識しながら構成を組み立てました。
SNSや短時間のコミュニケーションが中心になっている今の学生世代にとって、一本の映画を集中して観て、そこから自分の感情や価値観を言葉にしていく時間は、思っている以上に特別な体験になります。ただ楽しむだけの映画鑑賞とは違い、「どこで心が動いたのか」「なぜ気になったのか」「他の人はどう感じたのか」を丁寧に辿っていくことで、自分の中の軸となる部分が少しずつ輪郭を持ちはじめます。そのプロセスを授業の中でやることに意味があると思い、今回は、映画鑑賞、個人での振り返り、ペアでの対話、全体共有という流れを大切にしました。
終わったあと、学生から提出されたレポートを読みましたが、一枚一枚にしっかりと向き合った言葉が並んでいました。「自分は何も考えていないと思っていたけれど、話してみたら意外とちゃんと感じていたことに気づいた」「他の人の見方に触れて、同じ映画でもこんなに違う世界が見えているんだと驚いた」そうした言葉がたくさんあり、こちらが励まされるような気持ちにもなりました。
今回、2コマとも違う作品を選びました。同じ枠組みの授業でも、映画が変わると参加者の反応や場の空気がまったく違う方向に動いていくことも実感しました。静かに自分と向き合う雰囲気になる回もあれば、予想以上に感情が出る回もあり、ファシリテーションの在り方を調整しながら進めました。こちらが教えるというより、一緒に経験させてもらっている感覚の方が近く、私自身にとっても大きな学びの時間でした。
今回の授業を通じて、映画がもつ力だけでなく「安心して話せる場」を設計することの意味も改めて感じました。発言を強制しないこと、黙る自由があること、正解探しではないこと、そして話すことが得意ではない学生も置き去りにしないこと。そうした前提があるからこそ、学生は自分の言葉で語ろうとしてくれます。ただ映画を使った授業というだけではなく、未来の福井を担う若い世代が、自分で考え、自分の感情に責任を持ち、他者と対話できる力を育む時間になったのではないかと思っています。
地域おこし協力隊として活動しながら、フィルムコミッションの業務にも携わり、福井で映画と向き合う日々の中で、こうした教育現場での取り組みにつながったことは、私自身にとっても大きな意味を持ちます。映画は観て終わるものではなく、そこから社会との接点をつくることができるということ。その可能性を、福井という場所で少しずつ形にしていけたらと思います。
そして何より、この機会を一緒につくってくださった大学の先生方、受け入れてくれた学生のみなさん、そして支えてくださった県庁のみなさんに感謝しています。今回の経験を、これで終わらせず、次の取り組みへとつないでいけるよう、これからも挑戦していきたいと思います。
—–
Cinema Dialogue Lab.(シネマ ダイアログ ラボ)は、映画鑑賞後の対話を通じて、個人の感情や価値観を言葉にし、他者と共有する場を創出する文化活動団体です。映画は、観る人の年齢や経験、文化的背景によって異なる解釈や感情を引き出します。その違いを尊重し合う対話を通じて、自身の価値観を相対化し、多様性への理解や創造的な思考を育むことができます。福井を拠点に、公共施設や教育機関などで上映・対話イベントを実施しながら、県内外・海外のコミュニティとも連携。映像と対話を通じて、人と人、地域と地域をつなぐ循環型の文化プラットフォームの構築を目指しています。







